What’s BNCT?

日本国内で、毎年90万人の方が癌と診断され、35万人以上 の方が亡くなっています。

医学の進歩により、 様々な病気 の治療法が開発され死亡率が下がる中、 癌に対する根本 的、決定的な治療法は未だ見つかっていません。

中性子を 用いた放射線治療法の1種であるBNCT は、 根本治療を可能 とするポテンシャルを持っています。

当社は、これに着目 し、これまで大規模な設備が必要だったBNCTを、多くの病 院に設置できるよう開発を進めています。

BNCT(Boron Neutron Capture Therapy)とは、中性子線と、ボロン製剤を組み合わせた放射線がん治療法です。

特定のがん細胞に貯まる特徴を持った薬剤にホウ素を化合させたものを患者に投与し、そこに中性子線を照射すると、ホウ素と中性子線が核反応を起こし、強力な粒子線(アルファ線、7Li粒子)を発生します。

この粒子線は半径10ミクロン程度の範囲の細胞を破壊します。これによって、がん細胞のみを破壊し、健常細胞への影響が非常に少ないことが大きな特徴です。

BNCTの歴史

BNCTは、1960年代より臨床研究が行われており、日本が最も多くの臨床研究を行ってきました。主に、京都大学の実験炉で発生した中性子を用いて、京大だけで500例以上の臨床例が報告され、効果が確認されています。しかし、中性子発生の為に原子炉が必要なことから、臨床研究だけで、広く治療に応用されることはありませんでした。

そこで近年、原子炉ではなく、サイクロトロンやRFQ(Radio Frequency Quadrupoles )ライナックといった、大型の加速器を用いた中性子源から発生した中性子線でBNCT治療を行う試みが進んできました。

しかし、いずれも加速器も10m程度の長さの加速管を持つ大型の施設であり、設置に専用の遮蔽建屋が必要などコストが高いのが課題でした。

小型化技術

当社は、中性子を発生させるための加速器の大幅な小型化に成功しました。

これまでの大型加速器中性子源では、数MVから数十MVといった非常に高い電圧で加速したイオンをLiやBeといった金属に照射し、中性子を発生させるものでしたが、加速電圧が高いことから、大型の加速装置が必要でした。

これに対して、当社の加速器は、重水素(D)に100-400kVといった比較的低い電圧で加速した重水素イオンをぶつけて核融合反応(DD反応)を起こすことで、中性子を発生させています。

加速電圧が、従来方式の1/100程度であることで、非常に小型(長さ約70cm)の静電加速器で中性子を発生できます。

DD反応はよく知られている反応ですが、この反応によってBNCT治療に必要な中性子線量を発生させるには非常に多くのイオンを当てる必要があり、100-400kV、100-500 mAといった電圧、電流が発生可能な電源が必要であり、これまでこのような電圧、電流を発生可能な電源は実用化されていませんでした。

当社では、この高電圧、大電流の電源を実用化することで、この小型の加速器で十分な量の中性子を発生させることに成功しました。

また、低加速電圧、小型化によって、装置の自己遮蔽を実現しました。

多門照射技術

加速器が小型であることから、複数の方向から中性子を照射する装置が実現できます。これを多門照射と呼んでいます。

これまでのBNCTは1方向からのみ中性子を照射していましたが、この方式では、体表面から5センチ程度の深さまでしか治療に十分な量の中性子を照射することができませんでした。

これに対して、多門照射では、一度に3-10台(方向)の中性子源から中性子を照射することで体の深部まで十分な量の中性子を照射することができます。

例えば、一方向からの照射で、体表面で10の強さの中性子を照射できる中性子源を使って照射し、体の深部で1の強さまで減衰する場合でも、n方向から同時に照射することで、理論上、体の深部にn倍の強さの中性子を照射することができます。

以下は、6方向に設置された加速器のイメージ図と、DD型加速器の写真です。

京都府立医科大プロジェクト

2016年11月22日に、京都府・ローム株式会社・京都府立医科大学・福島SiC応用技研株式会社の4社で、プレス発表を行い、

1.最先端のがん治療の発展を目指し、京都府立医科大学と福島SiC応用技研株式会社が、ローム株式会社のSiC を活用したBNCTに必要な治療機器 (SiC-BNCT機器) の研究開発を実施する。

2.研究開発の成果を踏まえ、最先端のがん治療を行えるよう、SiC-BNCT機器及び建物をローム株式会社が京都府に寄附する。

BNCTに必要な治療機器の研究開発の実施および、SiC-BNCT機器及び建物をローム株式会社が京都府に寄附するの2点について基本合意したことを発表しました。

この合意に基づき、当社は2021年7月に京都府立医科大学へのBNCT臨床試験機を納入しました。